ページ

11/08/2014

Kindred(YL5)

Kindred
Kindred
posted with amazlet at 17.03.20
Beacon Press (2004-02-01)

Kindred (語数96,452語)

現代の黒人女性Dana。カルフォルニアの新しい家で夫と26歳の誕生日を一緒に迎えていたその時、突然、南北戦争前の南部の世界へ飛ばされてしまうというタイムトラベルものです。

物語ではアメリカ建国記念日200周年目の1976年と、1800年代を彼女は行ったり来たりします。彼女の祖先にあたる白人少年Rufusが危機に陥る度に、彼女は過去へ飛ばされ、少年を助けることになります。しかし命の恩人とはいえ、彼女は黒人なので周囲からは奴隷として扱われます。

1970年代的な考え方と、奴隷制度が「常識」だった南部の人々の考え方のはざまでの葛藤や、当時の人々の暮らしぶり、考え方が、「タイムトラベル」を通して、生き生きと描かれています。

Ψ

とにかく主人公のDanaが魅力的でした。現代人としての「常識」をもちながらも、そこまで一方的に当時の白人たちのやり方を責めたりはしない。そんなことを黒人の身でやったら命がいくつあっても足りないし、所詮は歴史を変えられないという諦念もあったと思います。でもだからこそ、ときには他人を傷つけ、自分も傷ついている白人の葛藤までも、かなりフラットに見つめるのですね。与えられた状況の中で、葛藤しつつも彼女は最善を尽くしたと思います。

本書は1979年にアフリカ系アメリカ人のOctavia Butlerによって書かれました。70年代にこの小説が出版されたことに、驚きを感じます。まずは当時にここまで書ける女性のSF作家がすでにいたのか、という驚き!世界は広いですね!

本書の舞台は1976年で、公民権運動もひと段落したくらいの時期ですが、DanaやKevinはかなりリベラルな感じなんだろうな(だからこそ今読むと、すごく感情移入しやすい!)ということはみてとれます。白人のKevinと黒人のDanaの結婚にいたるまでの騒動を描くことで、彼らの親世代はまだ人種差別の傷を引きずっているし、周囲も彼らほどのリベラルというわけでもなさそうだ、ということがわかります。そういう環境の中でここまで書ける、というのは、本当に凄いと思います。葛藤があるからこそ、ここまで書けるのかもしれませんね。

英文は読みやすいです。とにかく面白いし、グイグイ読めるので、オススメです!

南部の農園ということで、個人的には「それでも夜が明ける」の映像がすごくこの小説の情景と重なり合いました。南部の農園の様子を知るには、こちらの映画もいいかもしれません(全然夜は明ける気はしない映画でしたけどね…。原題は「12 Years a Slave」なのに、なんでこの邦題にしたのでしょうか)。