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1/31/2016

Bomb: The Race to Build--and Steal--the World's Most Dangerous Weapon(YL6)

Bomb: The Race to Build--and Steal--the World's Most Dangerous Weapon (Newbery Honor Book) (語数60,534語)

第二次世界大戦中のマンハッタン計画をめぐる実話なのです。2013年のニューベリー受賞作品で非常に読みやすかったです。

  • Oppenheimerを中心とする原爆開発チームの話。
  • 米英の原爆開発の研究をさぐろうとする「同盟国」ソ連のスパイたち。
  • ドイツの原爆開発を阻止するために、原爆の材料となる重水素工場を破壊する工作チームの話。

これら3つの動きを軸にしながら、戦中から戦後冷戦までの流れがよく描かれていて読み応えはありました。

エピソード的にはノルウェーの破壊工作話がインパクトがありました。これはアクション映画か?いや実話か!という手に汗握るような展開です。ノルウェーは大戦中、ドイツに占拠されているわけですが、そこには原爆の材料として必要な重水素工場が堅牢な場所にありました。この重水素が原爆の開発に利用されることを恐れた連合国側は、英国軍の特殊部隊で訓練した地元ノルウェーの工作メンバーを送り出して、工場を破壊させるわけですが、とにかく難攻不落な場所の立地とあって、よくぞ成功したな、という顛末でした。

マンハッタン計画に参加している学者たちの「裏切り」行為自体のエピソードも「えーっ」という感じではありますが、彼らの「戦後」も平坦ではありません。

ソ連が米国の予想よりも早く原爆を完成したため、情報漏えいに気付いた米国側は、戦中のテレグラムを全て捜査して、「容疑者」として次々と特定されていくわけです、ドイツ生まれの理論物理学者Klaus Fuchsや、米国生まれの理論物理学者TedHall(19歳でマンハッタン計画に抜擢された最年少の物理学者。しかし自らソ連領事館にかけこみ、情報を流すことを申し出る)、もともと産業スパイとしてソ連にスカウトされいたHarryGold…。そもそも情報を流していた当時は「同盟国」だったソ連への情報提供ですから、それを「裏切り」と糾弾できたものかどうか微妙なところがあるわけですが、「自白」にまで追い詰められたものが多い。

原爆の父と言われたOppenheimerにしても、水爆開発をめぐっては「倫理」感から失意のどん底。それほど幸福な余生を送った様子はありません。

政治的なキーとなる動きもよくまとまっていました。

原爆開発にゴーサインを出したRoosevelt大統領は任期途中で亡くなり、結果として自動的にTrumanが大統領となり、日本へ原爆を1度ならず2度も落とす決定をくだします。TrumanのStalinとの相性の悪さもみてとれるし、戦後の水爆の開発をめぐっては、Oppenheimerにたてつかれながらも、ゴーサインを出します。「どうせソ連に水爆の開発をされれば、今度は、どうして先に水爆を開発しなかったんだとたたかれるのは自分だ」という思いがTrumanにはあったという話も書かれています。…この辺はポピュリズムの弊害でしょうかね?とはいえ、原爆で先を越されたトラウマのあるStalinは、米国が水爆開発をしなくとも、Trumanがいうように水爆を開発させはしたでしょうね。もはや破壊力が巨大すぎて、なんの為の開発かもわかりませんが。そうこうしながら現在に至り、テロリストに奪取されたら…、印パ戦争でもしも勢いで使われたら…、などいう心配の尽きない今にいたる話なのです。